課題C 火山噴火の予測技術の開発

概要

火山噴火の発生確率の提示を行う手法を開発するため、以下の3つのサブテーマの連携のもとに火山噴火の予測技術の開発を行います。

事業・課題の概要

本課題では、火山噴火を予測するための基礎的な情報として、主要な活火山についての中長期噴火予測研究を実施し、事象分岐判断基準が伴った噴火事象系統樹を掲示する。さらに、最近の噴火事例のある代表10火山について事象分岐の条件を明らかにする。最終的に、これらの情報を別途構築した噴火モデルで評価することで、噴火発生確率や事象分岐の支配要因を明らかにする。以上の成果を他課題と融合することで、噴火予測の高度化を目指す。

成果目標及び実施方法
  • 国内の10~20の主要な活火山について、地質学的・物質科学的解析を行い、過去数万年間の時間-噴出量階段図を作成し、中長期予測を実施する。さらに活動履歴をもとにした噴火事象系統樹を完備する。
  • 特に10火山の最近の噴火事象について、物質科学的解析と観測データを融合して、噴火事象分岐予測の鍵となる要素を抽出する。
  • これら研究から得られた要素をもとに、マグマ移動シミュレーションおよび噴火ハザードシミュレーションを開発し、事象系統樹の分岐判断基準を決定し、火山噴火確率の算定に寄与する。
アウトプット・アウトカム
  • 中長期噴火予測・噴火事象系統樹の研究成果は、火山防災、避難計画策定、長期のインフラ整備計画、住民教育などを行うための基盤情報として幅広く活用される。
  • 火山研究教育コンソーシアムと連携し受け入れた大学院生は、若手火山研究者として育成され、将来的には火山基礎研究および火山防災の次世代指導者となることが期待される。
事業・課題の実施体制
課題C
c_2pic
【採択機関・事業責任者】
国立大学法人北海道大学
大学院理学研究院特任教授  中川 光弘

課題Cは、地質学的手法および物質科学的手法で噴火履歴の解明と個々の噴火事象の解析を行い、得られた情報を数値シミュレーションや実験で解析・再現することにより、火山噴火の発生確率の提示を行うことを目標としています。この目標実現のため、そしてその成果を火山防災など社会に還元するためには、異なった手法を用いる課題Cのサブ課題が互いに連携することに加え、次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト全体で取り組むことが必要と考えます。本プロジェクトの仕上げに向けて、プロジェクト全体の連携研究の推進に全力で取り組んでまいります。

サブテーマ1
火山噴出物分析による噴火事象分岐予測手法の開発

本サブテーマでは、火山噴出物の化学分析及びデータ解析を迅速に行うツールを開発し、大量のデータを処理する火山噴出物分析・処理システムを構築します。その上で、噴火過程が歴史資料などにより明らかにされている噴火事象を用いて、事象分岐予測を行うための基本となる情報を5~10の火山で収集し、噴火事象分岐判断基準となるような火山噴出物の分析結果や解析結果を俯瞰できるカタログを作成します。また、次世代火山研究推進事業の「課題C サブテーマ2:噴火履歴調査による火山噴火の中長期予測と噴火推移調査に基づく噴火事象系統樹の作成」と連携し、課題C サブテーマ2で得られた過去の火山噴出物の分析結果や解析結果も可能な限り参照し、当該火山の噴火過程を考慮した噴火事象の分岐確率について示す手法を開発します。

事業・課題の概要

火山噴出物の分析に基づく噴火事象分岐予測を実現させるために鍵となるのが、いかに火山噴出物を多量かつ正確に分析し必要な情報を抽出できるかである。本課題では、火山噴出物を効率よく、かつ、高精度に分析・解析が可能な環境を新たに構築し次世代の火山研究者に提供するとともに、噴火予測の高度化に直接的に貢献するために、国内の10程度の活火山をとりあげて火山噴出物を解析し、物質科学的な噴火の特徴を一瞥できるカタログの作成を行う。

成果目標及び実施方法
  • 東京大学地震研究所に火山噴出物分析装置を新たに導入し、迅速かつ高精度な分析とデータ解析が可能な環境をととのえる。
  • 分析値・解析データの保存と公開のためのデータベース構築を行う。
  • 国内の10程度の活火山をとりあげて火山噴出物を解析し、噴火事象分岐予測につながるような火山噴出物の特徴の抽出を行い、これをカタログとしてまとめる。
  • 上記について、東京大学地震研究所は参加機関および協力機関と連携して実施する。
アウトプット・アウトカム
  • 構築した火山噴出物の分析・解析環境は、利用を広く火山研究者に公開し、火山研究の基盤をささえるとともに、火山研究人材育成コンソーシアムと連携して次世代火山研究者の育成を行う。
  • 火山噴火の際には、分析・解析環境を利用して火山噴出物解析を行い、迅速に噴火の特徴を明らかにするとともに、データベースやカタログにある過去のデータを参照して、噴火の推移についての予測を行う。
事業・課題の実施体制
課題C-1
c_1pic
【分担責任者】
国立大学法人東京大学
地震研究所准教授  安田 敦

火山噴出物分析の最大の長所は、遠い過去から現在までの火山活動やマグマの状態の変遷を知ることができることです。でもそのためには、大量の試料を分析してデータを集める必要があります。このプロジェクトでは、データ分析と解析が容易に行える環境を構築し次世代の火山研究につなげるとともに、可能な限り多くの活火山の試料を分析して、きちんとデータに基づいた噴火予測・推移予測が可能になるように尽力したいと思います。

サブテーマ2
噴火履歴調査による火山噴火の中長期予測と噴火推移調査に基づく噴火事象系統樹の作成

本サブテーマでは、過去数万年間に複数の噴火をした活動的火山を対象として、カルデラ噴火する火山、爆発的噴火を繰り返す火山、非爆発的噴火を繰り返す火山等に類型化し、類型ごとに調査対象とする火山を選定します。選定した対象火山について、文献・古記録調査、地表調査、ボーリング調査、トレンチ調査等を行うとともに、年代測定や火山噴出物の分析結果から、当該火山の噴火履歴及び噴火毎の噴火様式や噴火推移、噴出量の時間的変化を明らかにし、高解像度の時間―噴出量階段図を作成し、現在のマグマ供給の状態を推定します。上記の過去の噴火履歴調査から、それぞれの火山で過去に発生した噴火事象を網羅した噴火事象系統樹を作成し、中長期の火山噴火の発生確率を示します。また、可能な限り「課題C サブテーマ1:火山噴出物分析による噴火事象分岐予測手法の開発」の成果も参考として、個々の噴火における火山噴出物の分析結果から、噴出したマグマの物性も考慮した噴火推移を示す噴火事象系統樹とします。

成果目標及び実施方法

以下の地質学的・物質科学的手法を実施し、それらの成果をもとに、中長期噴火予測手法の開発および噴火事象系統樹の作成を行う。

  • 複数の火山を対象とし、個々の火山における長期間・高精度の噴火履歴を明らかし、個々の噴火については噴火推移についても復元する。
  • これらの成果をもとに、高精度の時間-噴出物階段図を作成する。
  • 履歴に基づいた噴出物の高精度サンプリングを行い、物質科学的に解析することで、個々の噴火のマグマの挙動を明らかにし、さらに長期にわたるマグマ変遷・進化についても解明する。
アウトプット・アウトカム
  • 主要な活火山についての噴火活動の中長期予測・噴火事象系統樹を公表することで、自治体、火山防災協議会および住民に周知され、長期のインフラ整備計画、火山防災および住民教育に活用される。
  • 本課題の実施内容は火山研究の基礎であり、火山研究人材育成コンソーシアムと連携し大学院生を多く受け入れることで、次世代の火山研究者を育成する。
事業・課題の実施体制
課題C-2
【分担責任者】
国立大学法人北海道大学
大学院理学研究院教授  栗谷 豪

R4年度より、サブテーマ2の責任者を拝命しております。本サブテーマでは26の活火山を対象とし、これまで個々の火山における噴火履歴の解明、個々の噴火における噴火推移の復元、各火山のマグマ供給系の長期的な変遷の解明など、着実に成果を上げてきました。そして現在は、それらの情報をベースとして、時間-噴出物量階段図や噴火事象系統樹の作成・整備といった、仕上げの段階にあります。プロジェクトが滞りなく進行するよう、最後まで尽力する所存です。

サブテーマ3
シミュレーションによる噴火ハザード予測手法の開発

本サブテーマでは、地震や地殻変動の観測量とマグマの物性や周辺岩体、応力場等の物理パラメータによるシミュレーションを行い、噴火事象分岐判断基準を構築します。また、山頂噴火から山腹噴火への移行の鍵となる岩脈貫入現象のシミュレーションを開発します。さらに、火山ハザードの予測のために、噴出した溶岩流や火砕流のシミュレーションコードを開発します。溶岩流シミュレーションでは、これまであまり考慮されていない溶岩トンネルを形成するような大規模かつ遠方まで到達するモデルを構築します。火砕流については、既往の火砕流現象を参考に火砕流シミュレーションの高度化を行います。火砕流・溶岩流シミュレーションを噴火事象分岐判断への利用を目指します。

成果目標及び実施方法
  1. 地下におけるマグマ移動シミュレーション
    噴火に至るまでのマグマの移動過程について、火道流や岩脈貫入現象のシミュレーション技術開発、実験によるマグマ物性モデルの高度化を行い、噴火事象分岐判断のための基準を構築する。
  2. 噴火ハザードシミュレーションの開発・高度化
    降灰・噴煙・溶岩流・噴石などの多様な火山現象に対して一元的に定量化を行うとともに現象を支配するパラメータを体系化し、噴火ハザードを高精度で評価可能なシステムを構築する。
アウトプット・アウトカム

火山活動から火山災害発生までの事象系統樹の分岐に定量的パラメータを与え、火山活動の推移予測や被害推定を定量的に行うための情報を提供する。

c-3-2

事業・課題の実施体制
課題C-3
c_3pic
【分担責任者】
国立研究開発法人防災科学技術研究所
火山研究推進センター副センター長  藤田 英輔

複雑な火山現象を理解し、より精度の高い火山災害予測の実現を目的とした噴火ハザードシミュレーションの技術開発を行います。地下でマグマがどのように動いて岩脈が進展していくのか、火道の中でどのように上昇し、どのような噴火に至るのか、また、噴火発生に伴う噴煙、降灰、溶岩流、噴石など様々な現象が影響を及ぼす範囲や時間など、これらを体系的にとらえてより定量的な情報発信の実現のためにチャレンジします。